ずっと気になっていた問題(高校生のための英文法−その6)の解説をします。同時に英語の勉強方法についても少し話します。まず、問題です。
第1問
下線部の中で誤っている箇所を指摘しなさい。
About 72% of India (1)being rurally based, villages of India (2)have always been said (3)that they represent the true essence and flavor of India (4)through their arts, culture, folk music, local dances, fairs and festivals.
まず、訳してみます。その際注意するのはS+V感覚でしたね。
英語はS+Vのセットが左から右へと流れるようにつながっているのですが、原則として、二つ以上の文(S+Vセット)があれば、接続詞でつなぎます。つまり、カンマで文(S+Vのセット)はつなげないということです。
ところが上の文は About 72% of India (1)being rurally based, ではじまり、villages of India〜と続きます。カンマで文(S+Vのセット)はつなげないというのが英語の大原則ですから、もともとはAbout 72% of India is rurally based.という文の動詞 is を(1)beingにして(これを分詞構文と言います)、カンマでつなげるようにしたわけです。よって(1)は正しい。もともとは文だったという説明も少し苦しい説明ですが…。慣れてくれば一瞬で分かるようになります。
以下は塾の高校生の訳です。
<訳>インドの72%は田舎であり、インドの農村はその芸術、文化、民俗音楽、地域ごとの踊り、市や祭りを通じてインドの本質、味わいを体現していると言われてきた。
少し日本語がぎこちないのですが、よくできています。ところが、この英文のどこが間違っているのかという段になると、分からないと言います。つまり、読んで訳をすることはできるのです。しかし、この英文は間違っています。「英語として間違っている文を読んで訳せる」というのが、わが国の英語学習の到達点なのです。
みなさんは間違った日本語を読めば、すぐにわかるでしょう。あるいは、美味しいものを食べた時、相手が「チョー、ヤベ〜」と言えば、それが「めちゃくちゃ、うめ〜」という意味だとわかりますね。どちらも、チョー下品な言い方ですが。
私たちの頭の中にインプットされている母語の体系が、本来ならマイナスの意味を持つ「チョー、ヤベ〜」を、状況や文脈によって、瞬間的にプラスの意味として受け取るのです。母語以外の言語では、すなわち後天的に学習によって身につけた言語ではこうはいきません。前にも言いましたが、真に独創的な思考は母語でなければできないのです。
要するに、母語と外国語の間には決定的な断絶があるということです。前回書いた英語の4技能を学校教育によって身につけさせるもくろみが、どんなに大それたことか分かると思います。東京オリンピックまでに英語熱を高めて、道案内くらいはできるように、というのがせいぜいのところでしょう。
かなりのリソースを割いて英語を学習するなら、せめて上記の英文を読んで間違いが感覚的に分かるレベルをめざすべきです。私が塾でよく言うフレーズに「書いて間違いは、言っても間違い。言って間違いは、書いても間違い。」があります。
英語を機械的に日本語に言い換えたり、空所に適語を補ったり、語句を並べ変えたりすることは英語の勉強ではありません。それは英語に名を借りた記憶力と少しばかりの思考力をためすテストに過ぎません。何より、そんなレベルの英語力では、英米のすぐれた小説を読んでもちっとも面白くないでしょう。受験が終われば、ゲームオーバーというわけです。
話が脱線しました。villages of India (2)have always been said (3)that they represent the true essence and flavor of India の部分に間違いがあります。正しい英文をひたすら音読していれば、間違いに気づくはずです。そんな時間はない、というなら、せめて解説を聞いた後、数十回は音読して下さい。
villages of India have always been saidとくれば、後は that S+Vではなく to 不定詞が続くのが英語です。つまり、正しくは villages of India have always been said to represent the true essence 〜と続くのです。
これを、「繰り上げ構文」と言います。具体例を挙げます。
It is said that he is honest.
は正しい文です。これを繰り上げ構文にします。
He is said to be honest.
となります。これは正しい。しかし、
He is said that he is honest.
は間違いです。that 節の中の he が繰り上がっていませんからね。よって、villages of India have always been said that they represent も間違いなのです。もう分りましたね。念のためにもう一つ例を挙げておきましょう。
It seems that he is honest.という文は、that 節の中の he を文頭に繰り上げて、
He seems to be honest.と書くことができます。しかし、
He seems that he is honest.とは言いません。
さらにもう一つ。
It is likely that he will pass the exam. は
He is likely to pass the exam.と書き換えられます。でも、
He is likely that he will pass the exam. は間違いです。
分かってもらえたでしょうか。問2の解説はまた近いうちにします。受動態はとても大事な箇所です。
外国語を学べば、世界には様々な見方や考え方があることに気づきます。母語に制約された精神を拡張し、偏見から自由になることもできます。しかし、私たちが学ぶ英語は受験で高得点をとるためのものです。精神は委縮し、偏見は高じるばかりです。もうそろそろ、That's enough!(うんざりだ!)と叫びませんか。