東大の問題を見ても、英語が苦手な人は、きっと意味不明な単語が無秩序にちりばめられているだけだと感じるでしょうね。星座の見方を知らない人には満天の星は「星」にしか見えません。それに対して、天文に詳しい人は「熊」や「獅子」や「白鳥」や「サソリ」が見えるのと同じですね。
英語に限らず、外国語を学ぶということは、夜空に散乱する無数の星のあいだのどこに切れ目を入れて、どの星とどの星を結べばよいのか、そのルールが分かるということです。「分かる」は「分ける」ことからスタートするのです。
そして、ある切れ目を入れて星をつないだ人には、はっきりとものの形が見えます。二人並んで星座を見ているときに、見える人にはありありと見える星座が、切れ目を入れることができない人には全く見えないのです。
ソシュールは、言語活動とは星座を見るように、もともとは切れ目の入っていない世界に人為的に切れ目を入れてまとまりをつけることだと言いました。その通りですね。僕は若い時に彼の本を読んで感動しました。
「それだけを取ってみると、思考内容というものは、星座のようなものだ。そこには何一つ輪郭の確かなものはない。あらかじめ定立された観念はない。言語の出現以前には、判然としたものは何一つないのだ」(一般言語学講義)
これは言葉を考える上で欠かせない視点なので、夏期講習会の国語の授業で2時間かけて中学3年生に説明しました。要するに言葉とはすでにあるモノや観念につけられた名前ではなく、名前をつけることでモノや観念が私たちの思考の中に存在するようになるのだということです。その時に話した具体例は、とても重要なので後日再び取り上げます。
さて、では東大の問題に「白鳥」や「サソリ」を見つけてみましょう。その際思考の枠組みとして役立つのが「A・B 相関」でした。まず(1)の動詞 substitute の「A・B 相関」を考えます。可能性として以下の3通りがあります。
(ア)S substitute margarine <for butter>
(イ)S substitute <for butter> margarine
(ウ)<for butter> S substitute margarine
(ア)は難関大学の受験生なら知っておかなければならない知識です。しかし、難関大学の難関大学たるゆえんは、このままの形では出題されないということです。(イ)と(ウ)のパターンもシュミレーションしておかなければ、何度も言いますが「肉離れ」を起こすのです。
(1)Our need for heroes to worship generally makes us disregard or deny what is ordinary in a great man. <For the man as he was> we substitute, sometimes while he is still alive, a legend.
これは3番目の(ウ)のパターンですね。これは前回説明しました。授業では細かいところまですべて説明するのですが、ブログではスペースに限りがあります。You Tube にアップすれば2時間はかかります。第1文も英語らしい表現ですし、,sometimes while he is still alive, という副詞のカタマリも味わいがあるのですが、一応全訳を書いて置きます。分からなければメールで質問して下さい。
「私たちは崇拝すべき英雄を必要としているので、偉人の中にある平凡な部分を無視したり否定したりするのが通例である。昔のあるがままの姿の代わりに、時には本人がまだ生きているのに、伝説的人物に置き換えてしまうのだ。」
そうそう、忘れていました。a legend は「伝説」ではありません。よく見て下さい。a がついています。a がついている以上、はっきりと輪郭を持ったイメージになります。「伝説的人物」になるわけです。基本的な考え方は以下の記事をお読みください。
『日本人は英語学習の第一歩でつまずいている。』
http://oitamiraijuku.jugem.jp/?eid=241
『英語学習・初歩の初歩 −「ことば」か「実物」か?』
http://oitamiraijuku.jugem.jp/?eid=242
(2)Between historical events and historian there is a constant interplay. The historian tries to impose <on these events > some kind of rational patterns : how they happened and even why they happened.
これは impose の「A・B相関」に気づきさえすれば簡単です。上記(イ)のパターンです。
「歴史的事件と歴史家の間には、一定の相互作用がある。歴史家は歴史的事件にある種の合理的な枠組みを押し付けようとするものだ。例えば、それらの発生過程やさらには発生原因という枠組みをである。」
(3)Your difficulty may be that you have acquired the habit of applying <to a multitude of little, unimportant things> the same serious consideration you might advisedly give to vital matters.
これも「A・B 相関」の(イ)のパターンです。apply の目的語がアンダーラインの部分で少し長くなっていますね。Your difficulty may be that も訳しにくいかもしれませんが、慣用的な発想です。それと advisedly という副詞をアドバイスから連想して意味を決めつけないことです。advisedly は「よく考えた上で」という意味です。
「やっかいなのは、極めて重要なことに対してよく考えた上で加えるのと同じ真剣な検討を、多くのちょっとした取るに足らないことに対しても加えるという習慣がついてしまったことかもしれない。」
それではまた明日お会いしましょう。