これまでブログで何度も指摘しましたが、共通テストへの英語民間試験の導入は,欠陥・不公正だらけです。およそ入試で最も必要とされる条件は公平性ですが、国と文科省自身がそれを破壊しています。公平で客観的な基準をうやむやにする姿勢は、公文書の改ざんのみならず、歴史までも書き変えようとする現政権の本質そのものです。そして財界の意向を受けての今回の件です。最も被害をこうむるのは、この国の若い人たちです。
そもそも、大学入試は各大学が学生の能力を測るために個別に実施すればよいだけの話です。特に今は18歳人口が減少しているのですから、以前の全教科記述式の入試に戻す絶好のチャンスです。
マークシート方式は、選択肢の中に正解がすでにあるのですから、それを選ぶだけです。最後は消去法と確率の問題になります。正解へ至るまでの緻密で分析的な思考は必要ありません。これは受験生の学力を大幅に低下させました。
共通一次試験とそれに続くセンター試験がもたらしたものは、大学の序列化と予備校や塾の隆盛だけです。以後、大学入試のための勉強は予備校や塾の専売特許になって行くのです。公立高校が予備校に倣ったり、人気講師を講演に呼んだりするようになったのもこの頃からです。
要するに、教育産業は公共部門を民営化する新自由主義(国民の資産である教育を始めとする社会的共通資本を個人の資産に付け替える口実)の先兵となっていくのです。吉本興業が国から100億円以上の補助金をもらい教育部門に進出するのもこの流れです。
それの極めつけが、共通テストへの英語民間試験の導入というわけです。教育を受験教育に収斂させ、効率と費用対効果を全面に押し出した予備校や塾が、この金儲けのチャンスを逃すはずがありません。本来のコミュニケーションを大学入試という一試験形態の中に限局しようとする動きがあちこちで見られます。
この流れに異議を申し立てる人がいれば、柴山昌彦文部科学大臣の「サイレントマジョリティは賛成です。」という一言で押し切られるのです。少数意見をなかったことにするこのセリフこそが安倍政権の本質です。まことに唾棄すべき反民主主義的な言い草です。
柴山昌彦文部科学大臣のこの発言に対して、ある高校生がツイートしています。
「高校生として私は反対です。学校、塾の友達も反対。そもそも私たちに国がアンケートを実施した記憶はなく、反対を主張する機会が無い状況でサイレントマジョリティというのはおかしくないですか? 自分に都合のよい声だけを取り上げ、誇張して言及する質の悪いやり取りは、ディベートにもなってない。」
まさにその通りです。文部科学大臣よりも高校生の方がはるかにまともです。
いつのまにか文部科学省委員になっていた、この「有名予備校講師」も、柴山昌彦文部科学大臣のように「サイレントマジョリティは賛成です。」と考えているのでしょう。「東進」の映像授業は根本的な欠陥があると前に述べましたが、「リスニングで人生が変わる」という何の根拠もない「宗教」を広めるのが使命だと考える人の人生なら、変わるかもしれませんね。たかが英語です。きちっと基礎を固めた後は、各人が必要な時に必要なだけ勉強すればいいのです。それを人生と結び付けるなど、根本的な知性を欠いている人間の考えそうなことです。
以下のサイトの記事を読めば、今回の件が単なる大学入試の問題ではなく、国家レベルで知の崩壊が進んでいることが分かります。メディアの劣化はこれに拍車をかけています。全部読んでもらいたいのですが、時間がない人のために今回は代表的な二人の論者の意見を取り上げます。
https://nominkaninkyotsu.com/collaborator/
阿部 公彦(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部教授/英米文学)
英語入試の改悪に反対します。今回の「4技能均等」なる看板は,政治的な理由で捏造されただけのニセものです。テスト運用の観点からも問題は山積。入試出題者が入試対策も請け負うという制度は問題漏洩の温床です。高大接続と大学入試システムの一日も早い「正常化」を願います。
寺島 隆吉(国際教育総合文化研究所・所長、元岐阜大学教育学部教授/英語教育学)
大学英語入試への民間試験導入は重大な欠陥があり,中止すべきです。その理由は以下のとおりです。
1:目的・内容が異なる試験をCEFRで標準化することは不可能。
2:田舎に住むものと都会に住むものとでは受験する機会がまるで違う。
3:文科省の指導要領に従わない民間試験を高校生が受験しなければならないのは全くの不合理。
4:本来は文科省が無料で実施すべき全国大学入試を受験生が高い金を払って受験しなければならないのも全く不合理。
5:民間試験を受験したとしても,それを採点するのは誰がするのか,その公平性を誰が保証するのか,全く不明。
6:英語の大学入試を民間委託するのは,高校教育の現場を民間企業のための予備校に変質させる危険性が極めて高い。
7:結局,英語の大学入試を民間委託するのは,英語教育産業を儲けさせる方策となり,英語教育の改善には役立たない。
以上。