3・11以降、この国を広く覆ったのは感情の劣化と、歴史の捏造・改竄でした。それを加速させたのが大日本帝国のエートスの体現者である「ぼくちゃん」総理とその支持者たちでした。彼らは権力に迎合することが、個人であれ組織であれ、経済的利益にあずかる手っ取り早い方法であると考える人間たちでした。
彼らは、被雇用者(会社員がほとんどですが)の利益を搾取して豊かになり、しかも世間的な成功者と見なされるのですから、今の社会の支配的な価値観を疑うことはありません。疑えば自分の足元を切り崩すことになるので、現状に異議申し立てをする人間たちを敵とみなします。要するに自分の足元を客観視できない能天気な人間たちなのです。
東日本大震災から9年になりますが、私は煮え湯を飲まされるようにして悟ったことがあります。それはこの国の多くの人々は、どんな災厄を目にしても、実際に被害に遭わない限り他人事だとしてスルーするということです。カルト化した受験教育とマスメディアによって教育された結果です。
子供が下手に社会に関心を持ち、そのことで人間的な想像力を起動すれば、少数者の側に転落する可能性が出てきます。そうならないように、親は無意識に子供を見張っています。たこつぼの中に閉じ込めておきたいのです。それが子供の幸福を毀損することになるとも気づかずに。
政府は言うまでもなく、新型コロナウィルスに対するメディアや人々の反応を見ていると、実際自分の家族や知り合いが感染するまで事態の深刻さを認識しないでしょうね。いや、そうなっても、楽観視したままかもしれません。人間は見たいものしか見ない生き物です。その習性を突き破るものこそが知性なのですが。
今回のコロナウィルスの報道を見て、私は大学時代に読んだアルベール・カミュの『ペスト』を思い出し、再読しました。前回のブログでも書きましたが、私たちは無能な政府によって殺される局面に入っているのです。『ペスト』についてはこれ以上述べません。ただ才能ある作家は、世界のあちこちに開いている落とし穴を想像力によってあらかじめ埋めているのだと言っておきます。特に何が今の状況を生み出したのか、これからどうなるのかをリアルに考えたい人には是非一読を勧めます。
以下はカミュの言葉です。
・私は正義を信念としていますが正義よりも母を先に守ります。
・哲学の価値は、哲学者の価値によって決まる。人間が偉大であれば偉大であるほど、その哲学も真実である。
・人間は現在の自分を拒絶する唯一の生きものである。
この言葉は、塾の授業でよく引用します。
Man is the only creature who refuses to be what he is.
・世間に存在する悪は、大半がつねに無知に由来する。明識がなければ、よい意志も悪意と同じほどの多くの被害を与えることもあり得る。
・重要なのは、病から癒えることではなく、病みつつ生きることだ。
・生きることへの絶望なしに、生きることへの愛はない。
・幸せが何から成っているのか探し続けている人は、決して幸せになれない。人生の意味を見出そうとしている人は、決して生きているとはいえない。
・われ反抗す、ゆえにわれら在り。
・人生それ自体に意味などない。しかし、意味がないからこそ生きるに値するのだ。
最後にもう一つ。
・わたしは犬に対して、昔から揺るぎない愛着を持っている。犬が好きな理由は、彼らはわたしのすることをいつも許してくれるからである。
アルベール・カミュ