私は2015年7月10日のブログ、『安倍首相に、心からのプレゼント』の中で次のように書きました。
「今日はあなたにプレゼントしたいものがあります。それは『戦争をしない国』という本です。今上天皇である明仁天皇と美智子皇后のこれまでの談話やメッセージが書かれた本です。あなたの戦後70年を記念する談話がどのようなものになるかわかりませんが、私はこの本の中の天皇皇后両陛下のことばと比較することで、戦後70年の歴史が一気に照らしだされると考えています」と。
個人的な願望ですが、私は『戦争をしない国』という本が、日本中のすべての家庭で読まれることを思い描いています。そして、高齢になった戦争体験者と、そのこどもと、そのまたこどもが、以下の天皇陛下の思いを共有するべきだと考えています。
「本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々、広島、長崎の原爆、東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」(2015年の新年の感想)
天皇陛下は、痛恨の思いでこのことばを述べられたのだと思います。それは、高齢と病をおして慰霊の旅を続けられる姿に、何よりもよく表れています。
『戦争をしない国』は、わずか120ページの本です。その93ページに次のような記述があります。引用します。
― 戦争末期、海軍予備学生として旅順にいた私の父(矢部文治/当時19歳)は、1945年6月の出来事をこう書き残しています。
「沖縄の戦局は日に日に劣勢で、6月になるとついに全島が制圧されたことを知った。そんなある日、一枚の紙がさりげなく全員に配られた。
〈 あなたは特別攻撃隊が編成されたとき、これに志願することを、
1、熱望する
2、希望する
3、希望しない
以上いずれかに○をつけよ 〉
アンケートはすぐに回収された。当時の情勢、雰囲気からいって、(3)はありえなかった。私もやむなく(2)に○をつけたが、この○の意味は大きい。いわゆる特攻隊志願とは、おおむねこういう形のものだったと思う」(『本・三代』私家版)
戦争に関する庶民の手記が教えてくれるのは、旧日本軍の指導者は「天皇」の名の下に、驚くほど簡単に国民の命を奪うことができたという事実です。「一億玉砕」という国民全員を殺害するような「戦法」を、軍の「戦争指導班」が公的文書の中に表記していた過去を持つ日本。それは純粋な自衛以外の戦争など、絶対にやってはいけない国なのです。 ― (引用終わり)
そして、8月1日の朝日新聞に、御文庫付属室の写真と玉音放送の原盤が公開されたとの記事がありました。すでに放送されているものよりも音声が鮮明であるといわれています。しかし、 同じものを、原盤だからといって8月1日にあわせて公開した意味はどこにあるのでしょうか。 原盤の公開に踏み切ったのは明仁天皇の意向があったからだと報じられています。 明仁天皇は、いまあらためて国民に玉音放送を知ってもらいたいと考えているに違いありません。
私を含めて、日本国民はあの玉音放送のことを、それが放送された時の状況を、どれほど知っているでしょうか。 若い世代はもとより、戦中、戦後を体験した人ですら、詳しくは知らないのではないでしょうか。 だからこそ、今一度私たち国民は知らねばなりません。 戦後の日本はすべてあの時から始まったということを。 そして私たちは、無条件降伏とひきかえに、二度と戦争はしないと宣言した平和憲法を手にしたのです。
そのことを、玉音放送原盤を公開することによって、メディアが書き、そして国民が知るようになる。 それは明仁天皇の明確な意思表示ではないでしょうか。 私は『戦争をしない国』を読んでそれを確信しています。そして、それはそのまま安倍首相への痛烈な批判でもあるのです。やがて出される終戦記念日の明仁天皇のお言葉と共に、この玉音放送の公開は、歴史から何も学ぼうとしない安倍首相に対する明仁天皇の無言のメッセージであり、けん制でもあります。 日本語読解力のない安倍首相とその側近に、今上天皇は最後のメッセージを発したのです。